インベカヲリ★「車輪がはけるとき」

喫茶店で向かい合って、話を聞く。
足し算が一桁までしかできないという、ある女の子は、こんな話をしてくれた。
「家の洗濯物を干すスペースに隙間があって、そこに大事なものを落とす癖があるんです。その隙間にものを落とすと二度と取れない。大事なものがずっとそこにあって、どこにも行かないのがいいんです」だからそこには、たくさんのビー玉やアクセサリーが落ちている。そんな隙間が、この世界のどこかにある。
またある子は、私がゴミ屋敷で撮った写真を見て、こんな話をしてくれた。
「予備校の女の子たちは、コロコロと好きな人が出来てて、教室に男子が入ってくると、スッと表情や目つきが変わって、理性がはけた瞬間が見えるときがあるんです。ゴミ屋敷の写真を見たとき、その瞬間に似たようなものを感じたんですよね」私は、その感性にワクワクした。理性がはけた瞬間に、どんな世界が見えるのだろう。人の言葉に未知の物語を感じるとき、心に一歩近づけた気持ちになる。それを私は、写真にする。

インベカヲリ★写真展「車輪がはけるとき」
5月5日(金)~5月21日(日)開催

インベカヲリ★ 東京都生まれ、写真家。一般人女性の人生を聞き取り、その心象風景を写真で表現するポートレート作品を撮影。国内外で展示を行っている。写真集に「やっぱ月帰るわ、私。」、共著に「ノーモア立川明日香」など。スガシカオのニューアルバム「THE LAST」ジャケ写撮影。文筆業もしており、月刊誌「新潮45」では、事件ノンフィクションも書いている。