根橋洋一「乙女蒐集家」

根橋洋一展「乙女蒐集家」 
11月2日~11月19日

水晶のごとき瞳の魔力が誘う甘美の園 (文・相馬俊樹)磨き抜かれた硝子玉のごとき大きな瞳が悦楽の魔法をかける。それは、直視した者を即座に麻痺状態に追い込み、蠱惑のうちに凍りつかせるだろう。そして、原色入り乱れる眩い少女の夢の国へと一気にさらってゆくだろう。 

瞳の魔力を上手に操る少女は、その目を直視した者を石に化したという恐るべき女怪メデューサが、無邪気とうら若き美を得てよみがえってきたかのようである。恐るべき蠢く蛇の頭髪も、美しくメタモルフォーズした少女の姿においては、その揺らめきに蛇のうねりを留めつつも、瀟洒なウィッグを髣髴させる優雅を誇る。

着飾った少女は、ぽっちゃりと弾力に富む果実を隠しながら、派手な色彩の衣服からのぞく冷たき魔性の肌で、小悪魔的な誘惑の遊戯に耽る。見る者は思わせぶりな悪戯の渦に呑まれて、目眩と陶酔のさなか、少女の幻夢の哀れな囚われ人となるだろう。熟した肉の色香と異なる、少女の肌の発散する不思議な甘き香りは、彼にとめどなくそそぎ続けられる。
もはや、ふらふらと酩酊の境を彷徨うにいたるまで…

少女の夢の王国ですべてを司るのは、当然のごとく、彼女自身である。だから、そこにみっしりと詰め込まれるものも、すべて、彼女のお気に入りのものばかりである。豪華なケーキやお菓子類や色鮮やかな花々が少女をとり囲み、塗り込められた華美な模様がその隙を覆い尽くす。ときに、それら原色の洪水は、少女を溺れさせるような勢いで押し寄せてくる。
 
だが、忘れてはなるまい。この世界の主人はあくまでも彼女なのである。少女の無邪気なる狂気が甘美の過剰を呼び寄せ、目を射るほどの色彩の氾濫を引き起こしたとしても、少女趣味が少女に牙を剥き、甘美と色彩の無秩序が少女の夢を乱すことなどありえようか。色彩の輝きはいかに暴走しようとも、少女の魅惑を飾り立てることを決して忘れはしない。そして、過ぎたる甘美は濃密の極みに達しようとも、色めく少女の芳香を消し去るようなことは断じてしない。双方ともに、忠実なる少女の僕なのだから。

むしろ、色彩と甘美の濃縮は、少女のエロスのエッセンスと見事に融合し、一丸となって、見る者の感覚に投下されるだろう。囲われた幻想少女の園で、少女たちの繰り広げる妖艶な魔法に翻弄されながら、心地よい混乱と恍惚に身をゆだねようではないか。これは、ルネサンス新プラトン主義の総帥マルシリオ・フィチノが自らもメランコリアの苦悩の末、そこに高貴な瞑想と思惟の神的なる光輝を見出した精神と通じるだろう。文・相馬俊樹