竃番の娘 村田兼一

ここで語る竃番(かまどばん)とは単に飯を炊く人を指しているのではない。火を扱い物を煮込む竃は古来より神に近しい。古代ゾロアスター教では、火と交信することで信託を得ていた。竃は、薬草を煮込み毒も薬も作る、神父や魔女など異界と交わる人たちの必需品でもある。物語の中の竃番には魔女が目立つ。ヘンゼルとグレーテルでは子供を煮込んでいた。シンデレラも竃の灰をかぶり「灰かぶり」と呼ばれていた。貧しい灰かぶり姫は一国の姫君になる。そんな竃番の傍らに彼女達の娘が遊んでいる。仄暗い部屋の片隅で竃の揺らめく焔に想いを駆け巡らせる夢見がちな娘だ。
娘もいずれは母に倣い、焔は継がれていくのだろう。そう、受け継がれるのは竃ではなく焔なのだ。仄暗い部屋で撮影しているとそんな妄想が頭に宿った。

竃番の娘(かまどばんのむすめ)
村田兼一写真展 11月8日(金)‐11月24日(日)
開廊時間:13時‐19時 休廊日:月曜、火曜