ベトナムにあるマジェスティックホテル・サイゴン103号室。小説家の開高健が愛し定宿にし、名著「ベトナム戦記」の取材拠点にもしていた部屋だ。昔に読んだ彼の何かの本で「メコン川から昇る黄金色の朝日が部屋に降り注ぎ・・」といった記述がとても印象にあった。そして、私と冨手麻妙の行き当たりばったりの旅と撮影は、この部屋のメコン川の朝の光とともに始まった。それは、まさに黄金色だった。やがて彼女のみずみずしい身体を光が照らし輝き始めた時、彼女の魂が南ベトナムの空と地に溶け合っていくのを感じていた。
この冬に、彼女のデビュー10周年を記念して写真集を出版する話があり、初めて会った時、彼女は私の眼をまっすぐに見つめて言った。「できれば、あなたと旅がしたい。旅の偶然性の中で私を撮ってほしい。」と。そして私は「暖かいところがいいね。ベトナムに行かない?」と、彼女を誘った。私は写真家としてのデビューの頃から、この地に何度も通っていた。ベトナムの独特の土地文化と、小説や映画などで何度となく描かれてきたベトナムを舞台とした物語が大好きだったから。いま、写真で冨手麻妙という女優が主役の新しい作品が出来たことがうれしい。百年後もこの写真作品が残ることを信じたい。ぜひ、ごゆっくりとご高覧ください。-野村恵子
野村恵子「月刊 冨手麻妙 ~Ami Tomite~」刊行記念写真展
9月27日-10月6日開廊時間:13時-19時 会期中無休