酒井敦「胎内窟」

断崖絶壁や石切り場を、大判4×5のフィールドカメラでモノクロフィルム撮影、イルフォード社の温黒調光沢印画紙に手焼きプリントしています。描写が緻密で最暗部の中にも更に奥行きを感じる作品です。

胎内窟 (文/酒井敦)
子どもの頃から洞窟が好きだった。コウモリをつかまえたり、洞窟の中に秘密基地を作ったりして遊んでいた。今でも事あるごとに洞窟の写真を撮っている。

大人になっても洞窟にもぐりたいのは、きっとお母さんのおなかの中での記憶をたどっているんじゃないだろうか、という思いに至った。それは舞踏の師である大野一雄がいつも語ってくれた「お母さんのおなかの中の胎児のように踊ってください」という言葉とともによみがえってくる。

「お母さんのおなかの中では胎児は微生物から魚類、両生類、そして哺乳類までのすべての生物の進化の過程を経て、この世に生まれ出てくるんですよ」と大野は幾度となく繰り返し、稽古をつけてくれた。
海辺の洞窟は波によって侵食されて出来上がったものが多い。地球は侵食作用と造山運動の繰り返しによって出来上がり、その中で生物も進化してきた。

この数年、4×5の大型カメラをかついでの海辺の洞窟や断崖絶壁や石切り場を巡って撮影してきた。岩の質感を再現したいので、モノクロ大判フィルムを光沢印画紙にプリントしている。今までの撮影とまったく違うのは、自然光をじっくり待つことだ。月に照らされている岩場を見つめていると、地球そのものが広い宇宙に漂う胎児のような気がしてくる。

酒井敦写真展「胎内窟(たいないくつ)」
10月14日~10月30日

October 14(Fri) – 30(Sun) Sakai Atsushi Photo Exhibition