中村趫[BOTANICAL DOMAIN]

中村趫 個展 [BOTANICAL DOMAIN]
5月2日~5月19日 Nakamura Kyo Photo Exhibition

幻想植物群に侵され、破滅の快毒を盛られた裸体、そしてエロスの光輝 (相馬俊樹・文)

腐蝕と崩壊の予感を引き連れて、
生の力に漲り、
繊細な形で繁茂する未知の植物群が、
こ惑の幻想美を誇示する女体に、
欠けた卵形の腹部を抱えた懐妊の母体に、
そして快楽の魔に憑かれたようにもつれ合う男女の裸体にじわりじわりと襲いかかる。
得体の知れない植物群は、エロティックな裸体に、あたかもカオスを植えつけ、侵食していくかのようでもある。
そして、人体の細胞を分解し、新たなエロスの秩序へと再編を試みているかのようでもある。
エロティシズムが、異様なる植物の魔力を引き寄せたのであろうか。
あるいは、ボタニカル・パワーの横溢する異界の磁場に、裸体と交接の神秘が捕われたのであろうか。
うねるがごとき旺盛な生長力がエロスの神秘に呼応し、二つの力は絡み合いながら、一つの流動へと融合する。
その激流はもつれ合う男女裸体を呑み込んで、陶酔の聖域へと連れ去っていくだろう。
裸体に、麻薬のごとき破滅の快毒が盛られる。 裸体に、デカダンスの幻影がもたらされる。
だが、頽廃の美のうちには、たしかに灼熱に震えるエロスの血潮が勢いすさまじく流れている。
昨年の悲惨な震災の直後、多くのイベントがキャンセルの憂き目を見るなか、異例の開催に踏み切った個展で、中村きょう氏はメランコリアをテーマにすえ、陰鬱なるサトゥルヌスの星(土星)の宿命に黒き太陽のごとき希望の光を喝破した。
これは、ルネサンス新プラトン主義の総帥マルシリオ・フィチノが自らもメランコリアの苦悩の末、そこに高貴な瞑想と思惟の神的なる光輝を見出した精神と通じるだろう。
そして、先日、氏から「今度の個展では久々にヌードを出します」と連絡があった。
かつて、多くの愛好家を魅惑した、崩壊感覚を孕む、あのデカダン・ヌード!
ただし、新作ヌード作品群は、アザー・ワールドから湧出したかのような幻想植物群に侵されている。
裸体は頽廃と腐蝕に悲鳴を上げている。
だが、やはり、そこには静謐にまぎれてエロスの光輝がはっきりと確認できはしまいか。