サトウ ヒトミ 『イグアナの息子』

「イグアナの娘」はどこかで聞いたことがあると思う。萩尾望都による漫画作品(1992年)で、醜形恐怖症と母娘の確執を題材にした異色作である。醜形=ブサイクの象徴として、イグアナが登場する。TVドラマでも、鏡に映るとイグアナの顔になっている菅野美穂が話題になった。
さて、「イグアナの息子」であるが、ことの始まりは、地元の夏の縁日のくじ引きである。息子が小さなイグアナを引き当てたのだ。そう、我が家にはイグアナの姿をした息子、、、ならぬ本物のイグアナが居た。(一昨年他界してしまったので過去形になるが)醜いどころか、イグアナは凛々しく美しく、愛おしい存在として成長した。写真は私のイグアナ溺愛記録のようなもので、タイトルは似ているものの、描く姿は真逆である。しかし、くじを当てたのは息子で、それを知ってか知らでか、私の溺愛を他所に、イグアナは息子のことが大好きであった。いつも息子を目で追い、側に居ると安心とばかりにぴたりと寄り添う。
そんな風にして、手のひらに乗っていたイグアナは、1.5mにまで成長した。鋭い爪を持ったイグアナは、抱き上げようとすれば、意図せずともこちらは傷だらけになってしまうのだが、息子だけは素手でひょいと抱き上げても全く怪我をしない。おそらく、二人の間には特別な言葉があったのだろう。
私はイグアナと居る時間は長かったが、その関係は最後まで築けなかった。理解しているようでもイグアナの言葉を結局聞くことが出来なかったのだと思う。それは、理解することでなく、ただ分る、ということなのかもしれない。イグアナがいなくなった日から三日間、息子は家に戻らなかった。きっと空からのイグアナの声をどこかでじっと聞いていたのだろう。 
マイペースな息子のことは、宇宙人とか異星人、などと例えてきたけれどおそらく、いつまで経っても、ただ分かる、という境地に至ることは出来ないのかもしれないなと、ふと思う。   2017立春 サトウヒトミ

サトウ ヒトミ写真展 『イグアナの息子』
2月3日~19日 会期中無休

サトウヒトミ 横浜生まれ。東京都在住。お茶の水女子大学 舞踏教育学科卒業後、JAL国際客室乗務員勤務。東京ビジュアルアーツで写真を学ぶ。2006年、写真新世紀佳作。2016年、サロンドトーヌ展(絵画)入選。同年、日本カメラ社より写真集「イグアナと家族と陽だまりと」を刊行。

February 3(Fri) – 19(Sun) 『Iguana boy』Hitomi Sato Photo Exhibition